場所は大阪、決勝戦は静岡県と埼玉県のプレイヤーだった。2018年2月、レートでカバマンダが大量に出現したその翌月、その一味だった両名の対戦が東淀川区民会館で行われた。
共有パ。間違い無く7世代最強のパーティであり多くの人間を苦しめ、それでもって完璧に使いこなせた人間は殆どいなかった構築。決まったアーキタイプが存在しにくい7世代環境において唯一と言って良いレベルでこの6匹に対するシミュレーションが必要とされた6匹である。
この2名は昨シーズンでこの並びを使用し2100を超えた。ただし、決して口裏を合わせていたとかでは無く、各々の最強の形を目指したら並びが被っただけだった。2人各々が信じる「最強」がこの6匹だったのである。
しかしそのシーズンが終わった今、2人はこの並びに対して如何に安定して勝てるかを考えることとなる。注目したのはこの共有パが"ボーマンダ軸の積みサイクル"では無く、"カバスタン"であること。この並びを真面目に考えられた人間にしか分からないこの事実が新たなメタゲームを生み出した。
ほのおのまい / めざめるパワー(氷) / ギガドレイン / ちょうのまい
カバルドンは何と言っても自身のタイプと欠伸の制圧力を活かして戦うポケモンである。その反面構成に最も差が出にくいこのポケモンから崩しを狙うのが"対カバマンダ"における第一歩だった。
強力な特性を持つ"カプ"の挑発からウルガモスに繋ぐ。欠伸を阻害し、自身がカバルドンに敢えて倒される事でウルガモスの起点を作ることができる。この「挑発+ウルガモス」を軸にした構築がこのシーズン序盤にて考えられることとなる。
二人は運営を交えて雑談を交わしながら選出画面に入った。
きのどく
たかきおす
注意書きをしておくと7世代USUM期のウルガモスというポケモンはそこまで強力な性能を持っているポケモンとは言い難い。少し調べれば分かるが受けループ対策としてピンポイントの採用が一番メジャーだったまであるこのポケモンがスタンダードな構築に軸として組み込まれていた構築同士が対戦会の決勝戦で当たっていたのはおそらく最初で最後であった。環境を読み切った2人による最前線の対戦を、観客はこの時に予感していた。
このマッチアップのポイントは勿論お互いのウルガモス。ミミッキュこそお互いの構築に居るがこの両名のウルガモスは防御に厚く振っており、ミミッキュで止まりにくい構成になっている。そうであれば撒くべきはステルスロックだが、前述の通りカプの挑発、ガッサスイクンが相手の安易な地面タイプの展開を許さない構図になっている。そして特筆するべきはメタグロスとカバマンダ。当時のボーマンダは身代わりを採用した恩返し1Wが主流でありメタグロスには満足な打点を持っていなかった。この時点でたかきおすのウルガモス選出は強く強制されていた。
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まずは初手のコケコカバ対面。カバがやる事はもちろん「ステルスロック」。ただしコケコ側は透かさず挑発を押す。お互いに分かっていた。分かっていたがこうなった。挑発を読んで裏に引くくらいならそもそもカバルドンを使う事が間違いだったと言う。
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そのまま倒してしまうと負けに直結してしまう。そうであれば無理やりでもテテフに引かざるを得ない。コケコが選ぶ技は「自然の怒り」。HPを半分削るこの技はダイマックスが無い本作において非常に強力な削りとして機能した。特にマゴのみを持った怒り+挑発コケコは当時猛威を振るっていた。
砂嵐が吹き荒れる中速いのはコケコだった。この後投げがあまりにも無謀である事が分かる。試合が稚拙な物になるのを恐れたたかきおすは「ごめんなさい」と皆に謝っていた。
コケコはボルトチェンジ。有利とされるメタグロスを繰り出した。するとテテフはZ技モーションを始めた。
相手の体力を3/4削る技。ここでメタグロスが大きく削れたのは非常に大きい。カプ・テテフに対する繰り出しが安定しにくくなるのであれば、挑発を持っているテテフで相手を制圧し切るという選択肢が生まれるからである。
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この対面。お互いに意識していたポケモンはウルガモスだった。メタグロスはウルガモスの起点になってしまうから盤面には常に挑発を持ったコケコを残し続ける必要があった。
対するテテフ側は一刻も早くステルスロックを撒きたかった。ウルガモスさえ削ってしまえば一応可能性として考えられる気合の襷のケアに加えてテテフで押し切るという選択肢さえ生まれてくる。そもそもカバルドンとメタグロスの対面さえ作れてしまえばメタグロスの構成上一気に展開を有利にできる。
ここでお互いに取った選択肢は「相手を倒さずに自身の展開を見据える」という物だった。両者、交代コマンドを選択したのである。
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お互いに交代を挟み再び初手の対面。きのどくはたかきおすの思考を全て読み取った上でのコケコバックを決めた。テテフの体力はもう無い。カバルドンは頑なに「ステルスロック」を撒いたがコケコの「挑発」がそれを防いだ。
長い長い1ターンが始まった。これまではテンポよく行われた展開を知り尽くした選択もこのターンだけは時間ギリギリまで悩んだ。
コケコは「マジカルシャイン」を選択。一刻も早く倒されたいという意思が見えた選択。しかし、カバルドンはここで試合を決める一手を繰り出す。
がんせきふうじ
ウルガモスにさえ当てれば即勝ちを狙えた技ではあったがここで見せることとなる。通常カバルドンの1Wは地震が採用される。なぜならカバマンダのカバはスタンダードの一角であり軸であり、唯一の地震は相手への遂行手段として優秀なメインウェポンであったからだ。この「岩石封じ」採用はカバマンダへの冒涜と言っても差し支えない。
しかし、この僅かな期間の"ウルガモスが強力なメタとして機能する環境"においては強力な一手へと変貌を遂げた。挑発展開に対するメタのメタ。ウルガモスというパワーカードを採用してる故のカバルドンの構成だった。展開構築の「展開される前に展開する」を体現した形だった。
コケコは「自然の怒り」を、カバルドンは頑なに「岩石封じ」を選択する。
こうなるとコケコ側はもうウルガモスを展開できない。4割程度までHPが削れたカバルドンではあったがコケコ側のウルガモスにとってこのカバルドンが相当な重荷となった。
「マジか…」
きのどくにとって大きな誤算となる「岩石封じ」。序盤のテンポとは一転、カバルドンの挑発が切れてからまた長い1ターンが始まった。
挑発が切れたターン、カバルドンはまた「ステルスロック」を選択した。もちろん「挑発」を読んで岩石封じを選ぶ択もあった。
メタグロスバック
見えている。おそらくそれしかないだろうと。メタグロスでカバを無理やり削り、コケコのマジカルシャインでカバルドンさえ落とせればカバルドン側のウルガモスの展開は阻止できる。だがここで撒いたのは「ステルスロック」。引きに合わせて選び3回目の選択にしてやっと撒くことが出来た。
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しかし、安心するのにはまだ早かった。メタグロスといえばアイアンヘッド。もちろんこれを放つ。
カバルドンは動いた。
エレキフィールドが切れた今、木の実を食べながらすかさず欠伸を選択。メタグロスの引きを強制させた。
メタグロスはコケコに引き、カバルドンが選んだ技は「岩石封じ」。コケコのすばやさが下がった。
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再びこの対面。しかし、もうカバルドン側は「ステルスロック」を撒き全抜きの体制が整っていた。こうなるとやる事は一つ。僅かな体力のテテフを切り裏のエースを展開する事だった。テテフバック。
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コケコは「自然の怒り」を選択、もう死にかけのテテフにはそれほどのダメージも入らない。
テテフはここでコケコを倒してしまうとウルガモスを展開されかねない。ただ先に動いたのはコケコだった。コケコは「マジカルシャイン」でテテフを落としてしまった。
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たかきおすが繰り出した最後のポケモンはボーマンダだった。しかし、メタグロスが削れ切った今、このポケモンを止める術は無い。「マジカルシャイン」の急所を避けるべく早急に地震でコケコを落としに行った。
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メタグロスは最速を取っていた物のこのボーマンダの方が早かった。それ故の前ターンの即地震選択。問題無く落とした。きのどくは最後の一匹を繰り出す。
祈るように唱えた。ステロも撒いた。ボーマンダの方が遅いワケなんてない。ミミッキュだったとしてもカバルドンを残しているから最悪択にできるがそれでもウルガモスであって欲しかった。
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ウルガモス。無情なステルスロック。ガッツポーズから繰り出された捨て身タックル。
今までのボーマンダとは全く違う構成のボーマンダではあったがそれよりも、互いのウルガモスが中心となったこのゲームは多くの人間に感動を与えた。
「対戦ありがとうございました」
シーズン7のカバマンダ環境。そのメタの挑発+ウルガモス。決して前期の結果に全く満足していなかった二人が見据えていたメタゲームをみんなに見せられた。
ただこのシーズン、挑発ウルガモスも、岩石カバルドンも流行る事はなく静かに姿を消した。それでもこの試合がプレイヤーに与えた意義はとても大きい。カバマンダの第一人者は対戦した二人に後日そう伝えた。
この日、たかきおすは合計で10試合程度を行ったがカバルドンの岩石封じを撃ったのはこの試合だけだった。ただ、最後の一試合でメタゲームの神髄が見えたのだった。
勝者 たかきおす