【テキストカバレージ】Battle rebolution 準決勝フィーチャーマッチ 『クゥリ』 VS 『たかきおす』

2019年2月、ウルトラはまだサン・ムーンだった頃の話である。

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東京都板橋区ではBattle rebolutionが開催され、たかきおす、クゥリの両者はそのイベントスタッフでありながら対戦参加をしていた。そしてその両名は準決勝にて相見えることとなる。

「対戦よろしくお願いしまーーーーす」

高い視線から威圧的に挨拶を放ったのはたかきおすの方だった。

「よろしくお願いします…」

クゥリは肩を落とし、苦い表情をしながら挨拶を返す。

このカードは過去に何試合も行われている。ただ殆どの試合で勝っているのはたかきおすの方であり、クゥリは一度しか、しかもフレンド戦でしか勝てていないのである。

かと言って彼は弱い訳ではなくむしろ恐ろしく強いプレイヤーだった。オフライン大会に参加すれば必ずと言っていいほど上位配信卓まで勝ち上がる。優勝は何度も勝ち取っており、ただ一人を除いて皆から恐れられていた。今、彼の目の前にいる男がその例外であった。

 

たかきおすが自分のパソコンとDSを繋いで画面をモニターに映した。オフライン対戦会の上位対戦卓は、こうして近くの人が対戦を見やすいようにする。当時の2人はレートでは2200や最終1ページ目を取り、オフ会でも優勝という結果を出していてギャラリーは多かった。

席に座り直してペンを取りメモを取り始める。

ブラッキーボーマンダ、ゲンガー、ナットレイヒードラン…」

「ちょっとちょっとちょっとまだ選出画面見てないじゃん」

周りからは笑い声が上がった。この5匹はクゥリが好んで使っていた並びであり、殆どの人間はこれを崩せない。一つ弱点をあげるとすれば彼がこれしか使わないこと。
たかきおすは優勝しか見ておらず、それなら必ずクゥリに当たることを見越して参加前にシミュレーションを行っていたらしい。クゥリがいる大会にはクゥリに勝てる構築しか持っていかないのはずっとそうだった。

 

選出画面

クゥリ
ブラッキーボーマンダナットレイヒードラン、ゲンガー、ヤドラン

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たかきおす
カバルドンボーマンダ、カプ・コケコ、ギルガルドカミツルギゲッコウガ

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画面が表示されてから5秒、選出決定ボタンを押したのはたかきおすの方だった。雑に置かれたタッチペンの音、ザワつく会場、ただクゥリはひたすらに静かだった。

このマッチアップ。ポイントになってくるのは主に2つ。
1つはカバマンダ側がきちんとブラッキーの処理ルートを確保しつつ、相手のマンダの威嚇を使わせた後からマンダを展開できるかということ。
もう1つはクゥリ側ナットドランの仕事量で試合が決まる。仕事量次第でクゥリ側がボーマンダを先に展開する選択肢が出現する。

そしてこの2週間前、この二人は朝まで酒に溺れながらこのマッチアップの話をしていた。お互いに手の内は分かっている。クゥリはナットレイ+マンダを軸に選出するし、たかきおすはボーマンダ+ギルガルドを軸に選出する。それがお互いの最善択であり最大値だった。

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「対戦よろしくお願いします」

選出が終わったら改めて丁寧に挨拶をした。この瞬間から友情や思い出といった物は対戦終了まで全て破棄される。残るのは対戦相手への殺意だけとなるこの瞬間、私はこの瞬間がたまらなく大好きだ。

ナットレイ - ギルガルド対面。

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まずは出し勝つ。通常ナットレイ側は宿り木の種と守るで対面ならギルガルドにリソース勝ちできるがギルガルド側に身代わりがあると一気に形勢が変わる。もちろん身代わりを持っている型でありクゥリもそれを予感していた。ヒードランバックを身代わりに合わせた。

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ヒードランは噴煙を、ギルガルドは身代わりを盾にシャドボを放つ。まずはヒードランの風船を割りボーマンダを通す準備をする。あとはクゥリの裏のマンダにギルガルドで毒を入れればこちらのボーマンダで楽に詰められる。

通常、次のターンはギルガルドカバルドンを交代する。が、今回連れてきたのはゲッコウガだった。

f:id:kiossamu:20160612211912p:plainハイドロカノン / ねっとう / みがわり / こごえるかぜ

通常、ブラマンダに対してはカバマンダガルドの3匹で投げるのが定石とされているが、たかきおすがこの日持ってきたギルガルドは耐久を大きく削り火力と素早さを伸ばした型であったためヒードランに対して一度も突っ張れない。そして風船ヒードランは挑発を仕込むケースが一定数存在し、風船が残った状態でカバルドンを対面させてしまうとゲームエンドに直結するため、ヒードランに対して圧をかけられる激流ゲッコウガを選出した。ただ激流ゲッコウガの最大の欠点としてボーマンダの竜の舞を許してしまう。そこで今回は水手裏剣を外して凍える風を採用することで、裏のボーマンダの素早さを準速にして相手のボーマンダに強く立ち回れる構成を選択していた。

相手のカバマンダガルドに対する最大値のナットレイ+ボーマンダ+ブラッキーorヒードランに対して一番強い形。クゥリのヒードランを引かせて何度もギルガルドナットレイ対面を作る。ヒードランのリソースを枯らしてギルガルドで詰めて勝ちがこのゲームのプランだった。

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ヒードランのステロに合わせてゲッコウガが着地する。ここで熱湯という技は大きな圧力となる。相手はナットレイに交代した。

焼けた。

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この時点でナットレイゲッコウガの身代わりをジャイロボール一発で壊せなくなる。ゲッコウガで押し切るルートをチラつかせることができるのである。

ゲッコウガは身代わりを置く。残飯を持たないナットレイはそれだけで体力が削れて行く。ただ身代わりを残したゲッコウガが取った手はギルガルドバックだった。

最終的にゲッコウガで制圧するゲームにするにはゲッコウガのリソースが若干足りなかった。そこでギルガルドを経由して、ゲッコウガの熱湯1回分を増やすことでナットレイゲッコウガで突破し、最終的にクゥリのボーマンダに凍える風を入れてゲームエンドを見据えた立ち回りだった。

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再び出来た削れたヒードランギルガルドの対面。ヒードランの体力も僅かになりゲッコウガだけではなく、元からプランとして据えたギルガルドで詰めるルートも見えてきた。次のゲッコウガヒードラン対面を作れれば勝てる。仮にナットレイボーマンダを合わせられても展開は作れる。

しかしギルガルドゲッコウガに引いたそのターン、先に動いたのはヒードランだった。ここで繰り出されたのはゲンガー。クゥリの最大値に対するゲッコウガ選出が裏目になった瞬間であり、通常カバルドンを選出する理由である。

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あの日話した見えていない挑発ドランに怯え続けた、思い出を捨てきれなかった自身の敗北だった。ボーマンダには鬼火が入ってしまうし、ギルガルドには影打ちが無いから引きは有り得ない。それこそボーマンダが鬼火を交わすか、鬼火を貰ったあとの舞地震でゲンガーを落とせばいいがこの男がそれを考慮していない訳が無い。どうせ耐えてくる。

少し、少しだけゲンガーを削ればいいのに砂もステロも無いし、ボーマンダを縛るための凍える風のせいで水手裏剣も無い。

ゲンガーゲッコウガ対面。ゲッコウガの体力は削れていた物の激流は発動していなかった。ナットレイの体力は舞恩返し圏内だった。ヒードランの風船は割れていた。ただ、ゲンガーだけが全く削れていなかった。

しかし、カバマンダの強さはここで発揮される。この構築の強みとして構築の匿名性がある。全く同じ並びでもその構成は何種類もある。ゲッコウガがスカーフの時があればカミツルギがZクリスタルのケースもあるし、それがギルガルドに渡るケースもある。そして、激流ゲッコウガの一番メジャーな構成には水手裏剣が採用されていた。

ゲンガーが削れてしまうのならボーマンダに鬼火を入れても舞地震圏内で負け、そうであれば水手裏剣を貰ってはいけないし先制技のそれを躱す事はできない。そうであればこのゲンガーゲッコウガ対面のゲンガー側の正解は水手裏剣の下から身代わりを置いて、身代わりが次の水手裏剣を耐える事だった。

恐らく、たかきおすのゲッコウガに水手裏剣があったのであれば迷わず押していたのだろう。ただ凍える風を採用していたから採用していない水手裏剣は押せなかった。身代わり置きに対する正解択だった熱湯を選ぶしか無かった。

この択が噛み合った瞬間クゥリの表情が歪んだ。負けを確信したたかきおすにとってそれはカバマンダを選択した事による幸運だった。ゲンガーの身代わりが押された瞬間、ゲッコウガの見えない水手裏剣にたかきおす自身が気付くこととなった。

次のターン、ゲッコウガヘドロばくだんで落ちる。死に出しでボーマンダを降臨させる。身代わり1回分削れたゲンガーは何も耐えないし、ナットレイは舞恩返しを耐えない。ボーマンダに鬼火が入るも竜の舞を選択したボーマンダを止める術をクゥリは持っていなかった。

「対戦ありがとうございました」

そう2人が言うと周りからは拍手と歓声が上がった。準決勝ではあったが最高に楽しい試合だった。ただそれと同時に自分が偶然拾えた勝利である事も最後の選択で自覚させられた。

「ねぇきおすさん、ゲッコウガって凍風持ち?」

当時誰にも話しておらず、どの記事にも書かれていないその技がクゥリさんの口から発せられた時は僕は物凄く戸惑った。でも今日見せなかったならまたいつかこの構成が活きる時がある。僕はまたいつか当たる彼に負けたくなかったから隠した。

「教えない。代わりに優勝してくるから待ってて。」

そう言って僕は配信卓の準備に取り掛かった。一時間後、泣きながら彼に謝ることになるなんて僕は思ってもいなかった。

 

勝者 たかきおす